コロナの感染者と死亡者ゼロが1年以上続き、パンデミックとは無縁とされたタンザニア。政府による公式発表は、アフリカの奇跡として、日本でも反ワクチン派を熱狂させた。
まさにイベルメクチンのお陰だという反ワクチン派の宣伝によって、中国製イベルメクチンが日本で売れに売れた。
しかし、社会主義のタンザニア革命党が握る政権の公式発表は、完全なデマだということが後に判明した。
コロナ感染者数ゼロが1年以上続いたとされるが、グラフ右側の急上昇は、事実の一端が明らかになったことを示している。
タンザニア政府の国家統計局が発表した数字によると、2020年5月から2021年6月までのコロナによる新規感染者・死者数はゼロ。
しかし、その偽データとは全く異なる現実があった。
コロナウイルスは、強気一点張りの大統領下で猛威を振るい、被害を増大させていた。
シェフをしているリチャード・マノンゴさん(36)は、3週間で家族4人を亡くし、自身も死にかけた。
「私たちは皆、同じ家に住んでいる。突然、おじとおば、そして32歳と29歳のいとこ2人が亡くなった」とマノンゴさんは話す。夜通し4人が苦しそうに息をするのが聞こえていた。
「亡くなると、政府関係者が夜中に来て、遺体を運んで行った」とマノンゴさんは言う。「死亡証明書には、(コロナでなく)『急性肺炎』と書かれていた。」
結局、マグフリ大統領は、政府がコロナに関するデータ発表を止めていたと認めた。「国民のパニックを煽る」からだという。
感染増加を示す数字は、誤った検査の結果だとされ、マグフリ氏は国の研究所の責任者を解任し、配下の人物と交代させていた。
「ブルドーザー」の異名を持つ精悍な大統領(キリスト教徒)は、隣国ケニアの病院に極秘入院し、心臓の合併症で亡くなったとされるが、実際はコロナ感染で死亡したことが関係者達から漏れ伝わっている。
マグフリ氏はコロナに感染し、人工呼吸器に1週間つながれて意識不明の状態だったが、2021年3月17日、呼吸器のスイッチが切られた。
政府高官や欧米諸国の外交官、タンザニアの野党指導者らが、その状況を明らかにした。
マグフリ氏の後任に就いたサミア・スルフ・ハッサン副大統領(イスラム教徒の女性)は、徐々にだが国際機関と再び連携し始め、暫定的にワクチン接種を開始した。
だが、コロナやワクチンに対する懐疑的な見方が広まっていたため、ワクチン接種率は世界的にも最低水準だという。
政府の中枢を占める反ワクチンの情報機関、公安機関のために、彼女は、すぐ事実を公表することはできなかったが、徐々に流れを変えて行った。
当時、エコノミスト誌の調査では、コロナ感染が拡大し始めてからの超過死亡者数は最大6万9000人と推定している。公表値の95倍死亡していた可能性がある。
イベルメクチンでコロナから守られていると言ってアフリカを理想化していた日本の反ワクチン派。それは、かつて北朝鮮を理想化した人達を彷彿とさせる。
新型コロナウイルスは、欧米帝国主義の大国が広めている「悪魔の作り話」、ワクチン要望は重罪、マスク着用は非国民、それが親中国タンザニアの姿だった。
マグフリ氏は(国内感染の)実状を知られぬよう、外国人記者の入国を禁止し、ワクチンの国内導入を拒否した。
コロナについて伝えた報道機関は「デマを流している」として活動を停止され、記者は刑務所行きだと脅された。
アフリカ諸国で正確な感染者数・死者数を提供する国はほとんどない。
それを反ワクチン派は、イベルメクチンによる理想的な成果だと読み違えている。
ボストン大学による研究では、当時、ザンビアの首都ルサカにある主な遺体安置所では、遺体の87%でコロナが確認された。
「神のおかげでコロナは絶滅した」。マグフリ大統領はキリスト教の大聖堂でマスクをしない数百人を前にこう宣言した。「タンザニアはもうコロナから解放された」。その演説はテレビで全国放送された。
マグフリ氏はコロナ対策をやめ、WHOと協議の末に立ち上げた保健省コロナ対応チームを解散していた。
大統領自身、化学の博士号を持っていると、よく口にしていた。
マグフリ大統領が宣言した「神のおかげでコロナは絶滅した」「タンザニアはもうコロナから解放された」は、大統領再選を目指す彼の政治的演出に過ぎず、事実背反であり、更なる感染拡大の悲劇を増大させていった。
以上、ウォール・ストリート・ジャーナル等から、一部をご紹介しました。
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