メイの記録 Ⅱ

情報戦サバイバル

反ワクチン派によって自殺に追い込まれた女医さん:オーストリア

 

Lisa-Maria Kellermayr: Staatsanwaltschaft München ermittelt | STERN.de
リサ-マリア・ケラーマイアー医師

 

反ワクチン派による、医療従事者達への殺害予告、暴力、暴言、嫌がらせは、米国、カナダでも深刻な問題であり、オーストリアでは、昨年、犠牲者が発生。


    
一般開業医であるリサ-マリア・ケラーマイアーさん(36歳)は、反ワクチン活動家や、コロナウイルスの存在を否定するパンデミック陰謀論者から、数ヶ月間に渡って脅され続けた。

最初はネット上やメールで、その後は直接脅された。
気絶させて地下室に連れ込んで拷問するぞ、虐殺するぞ、処刑するぞ、晒し者にするぞと脅され、嫌がらせをされ続けた。

 

彼女は仕事のために生き、情熱的で、思いやりがあり、率直な話し方をする医師であると、友人、家族、患者達は語った。

彼女は、救急隊員の訓練を受けた後、グラーツとウィーンで医学を学び、バート・イシュルのリハビリテーション・クリニックで働いた。

 

パンデミックが始まると、2020年3月から、彼女はボランティアで救急サービスとして患者達の自宅を訪問し、数ヶ月間24時間体制で勤務した。
独身者として「私は(パンデミックと戦う)最前線にいる」ことを人々に伝え、助力となっていた。

 

気管支喘息用のグルココルチコイドブデソニド吸入器を使用すると、コロナ患者の重症化と入院を、しばしば防ぐことができると彼女は発見し知識を共有した最初の1人だった。それは、ほとんど一般的に知られていなかった。

 

彼女は、ワクチンの熱心な支持者であり、そのことをツイッターで共有し、しばしばマスコミでインタビューを受け、彼女の明確な情報メッセージは称賛されていた。


しかし2021年11月、反ワクチン派のデモ隊や、コロナウイルス陰謀論支持者達は、彼女が働いていた診療所を取り囲み、緊急車両で使う正面入口を封鎖した。

彼女は抗議のツイートをしたが、それに対し、ヘイトメールの波が押し寄せた。
デモ隊に診療所を封鎖されたというが、1箇所、私道の1本は開いていたことが事実と違うとして、彼女は嘘つき呼ばわりされ、「でっち上げ」とされた。

(診療所の中にいて、仕事中に、完全包囲かどうか、外の様子を全て確認する余裕が彼女にあっただろうか?)

 

危害からの保護を警察に申し出たが、目立たないようにしていれば済むことだとされ、事態の深刻さが理解されなかった。

やむなく彼女は自分で警備員を雇い、診療所に来る人々を入口でチェックすることにした。

診療所の警備員は頻繁に危険人物達を追い払い、バタフライ・ナイフの所持を、それまでに数本発見したと、2月、ドイツとオーストリアのメディアに対し語った。

 

彼女は6月、自身とスタッフ達の安全対策として、警備会社等に10万ユーロ(1,360万円)以上を費やしたと述べ、「いっそ診療所を閉鎖して、スタッフと一緒に南太平洋に飛んだほうが安いでしょう」と付け加えた。

中には、ショットガンで殺す、致死量のワクチンで殺すなど、あれこれ殺害予告が続いた。


脅迫が続く中、2022年6月末に、彼女はワクチン接種の中止を発表した。
しかし、それで脅迫等が止むことはなかった。

 

その後、彼女は診療の停止を発表したが、それでも脅迫等が止むことはなかった。

その診療所に赴任する際、彼女は設備充実やリフォームのために、資金を投入しており、その銀行返済も不可能になった。


7月中旬、彼女は、診療所の完全閉鎖を発表せざるをえなかった。
「『通常の』状態で私たちが働くことができるのかどうか、また、いつ可能になるかの見通しを提示できなかった」ため、診療所を完全に閉鎖すると述べた.
それでも、脅迫等が止むことはなかった。


ワクチン接種が遅れているオーストリアで、感染の現場を知る医師として、献身的に尽くしてきた彼女だが、オーストリアの日刊紙 Der Standardとの最後のインタビューで、彼女は、オーストリア国家に見捨てられたと感じていると語った。

起きている絶望的な状況の深刻さが、警察にさえも理解されていないこと、そして、他の人達にも起きうることを、彼女は危惧していた。


2022年7月29日に、彼女はオフィスで自殺し、遺書が3通残されていた。


人々は彼女の死を悼み、夜を徹して追悼デモが行われた。

EU加盟国において、加害者を起訴しやすくするなど、いじめや心理戦に対する法律の強化を求める声があがっている。

月曜日の夜、数千人がウィーンの聖シュテファン大聖堂前と全国各地で集まり、キャンドルライトを灯し、夜を徹して彼女に敬意を表した.。

彼女の好きだったピンク色を着た参加者も多かった。

 

オーストリアの大統領夫妻は、彼女の診療所前に花を捧げ、賛辞を贈った。
そして、「この脅迫と恐怖を煽る行為に終止符を打ちましょう。私たちのオーストリアでは、憎しみと不寛容は許されません」と語った。


ドイツの警察は、脅迫状を送った男のメッセージが、アクセスできないダークネットから送信されていたため、対処できなかったと語った。

しかしDer Standard の記者は、容疑者をベルリン地域まで追跡することは殆ど難しくなく、相手がネオナチの人物であることを特定したと述べている。

 

ジャーナリストはまた、リサ-マリア・ケラーマイアー医師を反逆罪で告発し晒してやると脅したドイツ、バイエルン州北部出身の男を追跡することに成功した。

彼女を標的に殺害予告をした者達のうち、少なくとも2人がドイツ出身であることが特定され、反ワクチン運動の国際的な連帯性がクローズアップされた。


オーストリア医師会のヨハネス・スタインハルト会長は、「連帯を求め、暴力と憎悪に反対する力強いメッセージを送るため」医師たちに追悼集会に参加するよう呼びかけた。

何百人もの医師と医療スタッフ、そしてパンデミックとの戦いに携わる科学者達が参加した。

ドイツ医師会のクラウス・ラインハルト会長は、彼女の死は「社会情勢の残忍化が、どこにつながるかを劇的に示している」と述べた。

 

ドイツのカール・ラウターバッハ保健相は、コロナ・パンデミックが始まって以来、自身も大きな脅威に直面してきたが、ツイッターに「彼女は他人の命を救い、その代償に自分の命を失った。国家は、このような人々を守らなければならない」と述べた。


心理的暴力の被害者に対する支援が、必要とされる。

ジャーナリストのコリーナ・ミルボーンとマグダレーナ・プンツは、彼女を「パンデミックとの戦いにおける傑出したヒロイン。彼女は、しばしば1日12時間以上、週末もよく働いて、ほとんどの場合、彼女は地域で唯一人の家庭医だった」と評価している。


セキュリティ費用を自己負担できなくなった彼女が居なくなり、何千人もの人々が、かかりつけの医師を失ってしまった。

 

医師達は、ワクチンに過激に反対する人達のターゲットになっている。
警察の軽率な対応も問題になり、調査が行われている。


以上、昨年読んだ複数の記事から、まとめました。


業務時間が厳格に守られる西欧にあって、パンデミックの最中、24時間体制で救急訪問診療を行ったということは、まさに献身的な行為です。

感染し重症化する患者達を目の当たりにし、ウイルスとの戦いの最前線で、防御手段としてのワクチンの重要性を、彼女は常々痛感したことでしょう。

 

ワクチンを接種していようといまいと、公平に患者達を扱い、真摯に向き合い、時間外の訪問診療まで行う得がたい存在、親切な味方を、反ワクチン派達はストーカーの鬼となって、死ぬまで苦しめ続けたのです。

そればかりか、彼女が自死すると、ワクチンが原因で突然死したというデマを流しまくったのです。


犯人にはネオナチがいるとのことですが、米国の報道によると、左の過激派と右の過激派がQ何とかを中心に結集しているようです。

また、Q何とかの発信する情報の大半は、ロシア、中国、イラン、サウジアラビアなどからの情報で、以前はロシアが最大の発信源で、今は中国が最大の発信源だと、元情報機関の担当者が証していました。

 

反ワクチン運動の情報と情報源は、こうして複雑に絡み合っています。そこに込められた執拗な憎悪と攻撃性は、極めて政治的なイデオロギーに起因するようです。

 

運び出される、リサ-マリア・ケラーマイアー医師の遺体


Austrian doctors speak out after suicide of GP following Covid threats | Austria | The Guardian

www.theguardian.com